訪問介護基本報酬引き下げは介護の社会化を後退させる~いますぐ介護報酬改定の撤回と見直しを求めます
訪問介護基本報酬引き下げは介護の社会化を後退させる
~いますぐ介護報酬改定の撤回と見直しを求めます
2024年2月19日
東京・生活者ネットワーク
1月22日、厚生労働省は、2024年度からの介護報酬を全体では1.59%アップする決定しましたが、詳細を見ると訪問介護の基本報酬が引き下げられることがわかりました。東京・生活者ネットワークは、この改定を「介護の社会化」「住み慣れた地域で高齢になっても安心して暮らし続ける」に大きく逆行するものとして強く抗議し、見直しを求めます。
政府は、介護職の月平均賃金が全産業より約7万円低いことの指摘を受け、昨年末に介護報酬を上げることを発表していました。しかし、訪問介護については、介護事業経営実態調査における2022年度決算の収支差率が7.8%と黒字になったことを理由に、身体介護・生活援助・通院乗降介助ともに基本報酬を引き下げています。厚生労働省は、処遇改善加算アップ率は事業中最高であり、加算を活用することで訪問介護事業者の経営改善につながるとしています。しかし、最大の加算を申請しても人件費を上げることは難しいという試算もあるうえ、加算申請のための事務増や事業所内の体系整備などが大きな負担になるという声もあります。
厚労省が引き下げの根拠とした収支差率の黒字については、前回調査と収入がほぼ変わらない中で、人手不足の対応として既存の常勤者配置を増やし人件費支出が減少したため利益率が高くなったり、併設型訪問介護の利益率の高さが影響しているという指摘もあります。そもそも、訪問事業者はヘルパー不足のなか人をやりくりし、小刻みにされる報酬単価のなかで、短時間のケアを当事者の生活の連なりとして行おうと奮闘し、なんとか運営を継続しているというのが実態で、大幅な黒字とする厚労省のデータ分析と乖離しています。
これでは、現状でも深刻な事態となっているヘルパー不足は解決しないどころか、ますます人材はほかの分野に流れ、経営を圧迫していきます。地域に根付き、利用者や家族本位の手厚いサービスを提供している小規模事業者ほど、厳しい状況になることは目に見えています。事実、2023年の訪問介護事業者の倒産件数は67件と過去最高を記録しているのです。
さらに、在宅ケアへの影響という意味では、訪問介護報酬引き下げは、「東京問題」でもあります。東京都は、高齢化率は23.5%と全国的には低い数値ですが、絶対数として多くの高齢者が住んでおり、2023年の75歳以上の推計人口は176万1千人です。また、65歳以上の高齢者単独世帯(ひとり暮らし)も全国一の数となっています(2020年国勢調査で約81万世帯)。このような状況下、訪問介護によりサポートを受けることで、自宅で暮らし続けることができる人が東京には数多くいます。それは、介護が必要になったときに希望する住まいとして「現在の住宅に住み続ける」ことを希望する人が最も多いことから見えるという当事者の願いでもあります。
また、東京・生活者ネットワーク「ケアラー支援プロジェクト」が行った聞き取り調査では、1人の人が複数の家族・親族をケアする多重介護や、仕事とケア・子育てとケアが重複するダブルケア、祖父や祖母を介護するヤングケアラーなど、実に多様な東京のケアラー像が浮かび上がりました。訪問介護を利用してもなお自身の睡眠や生活時間を削らなくてはならないケアラーが、さらに追い込まれることにもなりかねません。
今回の引き下げで訪問介護事業者が減少することになれば、市民がサービスを選択できる権利が失われ、介護保険制度の根幹を揺るがすものとなります。2025年問題を目前としたケア問題として、訪問介護基本報酬引き下げは今すぐ見直すべきであると、生活者ネットワークとして断固抗議します。