東日本大震災発災から10年に寄せて
東日本大震災発災から10年に寄せて
2011年3月11日に発生した東日本震災、続く東京電力福島第一原発事故から10年を迎えようとしています。あのとき失われた多くの尊い命、身近な方を失くされたすべての被災者に、改めてお悔やみとお見舞いを申し上げます。
育ちゆく過程にあった子どもたち、地域社会の大人たちにも大きな傷跡を残した被災地の、復旧・復興は道半ばであり、福島県だけでも県外避難者数は2万9千人(2021年1月:復興庁)以上の方々が今なお、避難生活を余儀なくされています。未曽有の震災を目の当たりにした子ども・若者、震災後に生まれた被災地の子どもたちへの支援は、継続が求められる大きな課題です。
生活者ネットワークも賛同参加する「東日本大震災子ども支援ネットワーク」(連絡先:東洋大学社会学部 森田明美研究室)は、2011年の震災発災後、いち早く被災地の子ども・若者支援を開始。同時に、行政やNPO/NGOなどの民間団体と連携しながら、国会議員や県議会議員、関係各省庁や各部、市民団体などとの意見交換会を通じての政策提言活動、大学などを会場とした一般の方々にむけたシンポジウムの開催などをおこなってきました。
発災から10年目となる昨年の3月11日、東日本大震災子ども支援ネットワークは、「東日本大震災から10年目のメッセージ」を発信しました。丸10年を経た今、改めて次に紹介し、生活者ネットワークも進めてきた福島の子ども保養キャンプ、被災地の生産者との交流、被災地とつながる原発ゼロ政策の実現をめざす運動の継続とともに、東日本大震災子ども支援ネットワークが発信する、次の10年も子どもたちや若者たちに寄り添う支援、今後の災害やまちづくりに教訓を活かすための政策提案に取り組んでいきます。
東京・生活者ネットワークは、2016年8月25日~27日、福島・岩手スタディツアーを実施しました。
■2021年3月8日 NHKラジオ深夜便、23時台~に、
次の10年も子どもたちや若者たちに寄り添う支援を継続し、今後の災害やまちづくりに教訓を活かす
東日本大震災から10年目のメッセージ
2020年3月11日
東日本大震災子ども支援ネットワーク
2020年3月11日、東日本大震災から9年が経過し、10年目に入ります。
東日本大震災からの復興を目的として設置された復興庁の措置期限は当初2021年3月までとされていましたが、2031年までの存続が決定され、東京電力福島第一原発事故の被災地支援は、10年、津波被災地の支援は5年の延長が決定されました。
道路、医療、学校施設の復旧、災害公営住宅の建設などのハード面での復旧はほぼ完了しているものの、心のケアや生活再建などのソフト面の支援は、まだ中長期的な支援が必要とされています。福島では、避難指示解除地域が広がる中、地区のコミュニティ再生なども課題となっています。今なお、全国で4万8000人、福島県だけで4万人以上の方々が、避難生活を続けておられます(2020年1月末現在、復興庁)。未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復興にはまだ時間がかかります。
東日本大震災の発災前も後も日本列島に災害のなかった年はありません。
2019年も、8月の九州北部豪雨、9月には千葉県での大規模停電などの被害をもたらした台風15号、10月には静岡県や神奈川県、長野県、群馬県などの関東甲信越地方、福島県、宮城県、岩手県などの東北地方に広域な被害をもたらした台風19号などの災害が相次ぎました。東日本大震災の被災地は、またもや甚大な被害を受けました。
今こそ、以下の提案にあるように、東日本大震災の教訓を活かす必要があります。
これまで、私たちは、行政やNPO/NGOなどの民間団体と連携しながら、国会議員や県議会議員、関連省庁や各部、市民団体などとの意見交換会を通じた政策提言活動、大学などを会場とした一般の方々向けのシンポジウムの開催などをおこなってきました。また、東日本大震災1年目から毎年、計9回のメッセージを発信してきました(http://shinsai-kodomoshien.net/?cat=53)。これらのメッセージの中で提起された、災害子ども支援活動に求められる視点や「子どもの暮らし復興」に向けた提案の中には、今も必要とされるものが多くあります。これまでの視点や提案を踏まえつつ、東日本大震災から10年目の今、特に以下の点を強調したいと思います。
1.「東日本大震災子ども・若者白書」の作成
東日本大震災の記憶を忘れかけている時期を迎え、東日本大震災の教訓を活かすための「東日本大震災子ども・若者白書」を作成する必要があります。関連するデータの収集を含め、様々な災害が子どもたちにどのような影響を与えるのか、どのような予防や対応が求められるのかなどについて検証した白書が求められています。特に、災害後の短期的な影響だけでなく、中長期的に子どもたちがどのような影響を受けてきたのか、どのような災害支援が有益であり、今後も必要とされるのかも含めて調査をおこなう必要があります。また、実際に大災害を体験した子どもたちの声や体験を生かす、防災や復興のためのマニュアルなどの作成も早急に作成する必要があります。
2.「誰ひとり取り残さない」支援と支援者への支援
震災から9年が経過しても、すべての子どもたちが、必要な支援につながっているわけではありません。支援につながった子どもたちとつながらなかった子どもたちの間に大きな違いが生まれています。今も心身のケアなどの専門的な支援を必要としている子どもたちもいますし、高校や大学などの進路を決める時期に、家庭に経済的な余裕がなかったり、経済的な支援につながることができなかったりしたために、進学など希望する道を諦めざるをえなかった子どもたちもいます。ひとり親家庭や障がいのある子どもがいる家庭など様々な支援を必要としていた家庭が、震災によってさらに支援が必要な状態になっているということも多くあります。そのような家庭や子どもに継続的に寄り添うことができる支援者の育成など支援者への支援を継続していくことも重要です。
3.若者になった子どもたちへの支援
東日本大震災の発災当時、小学校高学年や中学生だった子どもたちが若者となり、子どもを育てる親の立場になっている若者たちもたくさんいます。震災発生時に高校生以上だった子どもたちは、国や自治体による学校における心のケアなどの支援をうけることなく大学などを卒業し、就職や出産・子育てなど新しい人生の岐路にたちはじめています。支援の対象になってこなかった若者世代が子育てに困難を抱え、被災地の保育所などでは子どもへの影響が表出しています。このような状況に対して、現在、若者となった子どもたちの個々の状況に応じ、医療・心理・福祉・教育などの面から必要とされる支援をおこなっていくことが求められています。若者たちの中には、被災した地元の復興のために、何かをしたいと模索しながら活動を始めている人たちもいます。そのような若者たちの活動を支援していく拠点づくりの活動、助成金の確保、専門的な支援活動も求められています。また、被災地の子どもたちを支える人材としての若者育成にも力を入れていく必要があります。
4.震災後に生まれた子どもたちへの支援
震災後に生まれた子どもたちで保育所に在籍する幼児を対象にした調査によれば、多動で衝動性が高く攻撃的な言動を行う幼児が増えていることが示されています(柴田・平野・足立, 2020)。また、被災地の保育所の保護者を対象にした調査によれば、不安や抑うつ傾向のレベルが高く支援の必要な保護者が30%を超えることを明らかにしています(福地, 202)。これらの結果は、震災による2次的、3次的影響が家族機能の低下をもたらし、子どもの発達に影響をもたらしていることを示唆するものです。前項でも記しているように、震災によるトラウマを抱えた若者が親となる世代となっており、世代を超えた支援が必要とされています。
(文献)柴田理瑛・平野幹雄・足立智昭(2020)「東日本大震災後の被災地における子どもの心身状態に関する研究」マツダ財団研究助成報告書福地成(2020)「みちのくこどもコホート」子どもの育ちを支える地域シンポジウム(2020年2月11日開催、仙台)
5.福島の子どもたちへの継続的な支援
福島の子どもたちや若者たちには、今なお多くの支援が必要とされています。国連・子どもの権利委員会による第4回・第5回日本政府報告への総括所見(2019)においても、福島の子どもたちへの継続的な健康・医療支援、金銭的支援、正確な情報提供などの措置をとるよう、日本政府に対して勧告されています。10年目に入った今、国の支援なども打ち切られた中での長引く避難生活での制約のある暮らし、避難先でのいじめや差別、支援からの孤立、避難指示解除によって帰町・帰村した方々は、新たな人間関係の構築や暮らしの模索、それに伴うストレスなど、多くの課題があります。避難生活が長期化する中で、支援ニーズも多様化し、子ども一人ひとりの個別の状況に沿った支援も求められています。
東日本大震災子ども支援ネットワーク
ホームページ http://shinsai-kodomoshien.net/