会員任命拒否はなぜ起きたのか!? 学問の自由・自律・独立を損なう「日本学術会議の任命拒否」に抗議

去る10月1日、菅内閣総理大臣は日本学術会議(以下:学術会議)の新任会員任命について、学術会議が任期満了者と同数の105名を推薦したにもかかわらず、うち法律・歴史学者ら6名について任命しなかった。この問題では、菅総理が任命拒否の根拠となる理由を示さないばかりか、野党議員の質問に対し答弁に窮するなど国会審議が紛糾する場面が続いている。

 

生活者ネットワークは日本学術会議における、環境・エネルギー、原子力、福祉政策など、市民生活に直結する重要事項審議の都度、委員会傍聴や公開フォーラムに参加してきた。
2017年には、前期をまたいで、防衛装備など軍事的安全保障研究に対する審議が、「安全保障と学術に関する検討委員会」(委員長:杉田敦法政大学教授)で行われ、意見の相違を乗り越えて、それまで日本学術会議が掲げてきた「軍事研究反対」を継承した「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月24日)を採択し、声明した。

そもそも学術会議は、その設置法に照らせば、戦前に科学者が弾圧されたことへの反省をもとに設立された、わが国の科学者の内外に対する代表機関であり、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とする団体・科学者コミュニティーである。

学術会議の職務は、「独立して」科学に関する重要事項を審議しその実現を図ること、科学に関する研究の連絡を図りその能率を向上させること、と明示されており、したがって、内閣総理大臣による任命(所轄)とされてはいるものの、一般の行政機関とは役割を異にする、「独立して」活動することが認められている機関なのである。文系から理系にいたる幅広い分野の研究者が集い、科学の重要事項を審議し、提言にいたる役割を担うもので、諸外国においても同様の団体・アカデミーには、政府から独立した高度の自律性が認められており、大学等と同様に「学問の自由」が保障されなければならない機関の一つなのである。

日本国憲法で、言論の自由、思想・信条の自由といった内心の自由が保障されていることに加え、「学問の自由」が特記(23条)されている価値は、過去の歴史的経緯に照らし、しばしば学問の世界に介入し抑圧する政治権力から学問・学術研究を守り、その自律性を承認したことにある。それこそが市民社会の健全なる発展、ひいては人類の平和的発展に寄与するべくある学問・学術世界を高度で豊かなものにする道だからである。

 

こうした理解に基づくならば、科学者コミュニティーである学術会議が政治権力などの外部の権力の介入を受けず、独立し、自律性を保つことこそが学問の自由の意味であるといえる。そして、自律性を保つために最も重要な要素が人事となる。男女を問わず、互いに学問・学術研究の成果を示し合い、議論し、検証し合うことで学問・学術は蓄積され、発展するのであり、学術会議という団体の構成員に誰を選任するかは、科学者コミュニティーの中で決める、その自律性が学問の自由を保障することと同義なのである。学術会議法(旧法)制定当初は、大臣による任命手続きはなく、科学者間の選挙で会員を選ぶことを認めてきた(旧法7条)が、人事要件が選挙制から推薦制へと改正された1983年の国会答弁においても、中曽根総理(当時)は「政府が行うのは形式的任命である」とし、その根拠を侵すべからざる「学問の自由」に求めている。今日菅総理は、「任命拒否は学問の自由を侵害するものではない」と言うが、人事への抑圧・介入が学問の自由を損なう始まりの一歩であることは明らかである。

 

10月1日の任命拒否報道からわずか1カ月間で、学協会や大学、大学人・大学関係者をはじめ、自然保護団体や消費者団体、映画人や演劇人、作家、ジャーナリストなど広範な団体から任命拒否に抗議する、じつに670もの声明が出されていることが、「安全保障関連法に反対する学者の会」の調査(10月30日現在)で明らかとなった。最近の各種世論調査でも、政府・菅総理の説明にならない答弁に「納得していない」という声が大多数という結果であった。

さらに、英科学誌ネイチャーは、菅総理の会員任命拒否に触れ、「政治家が、学問の自律性や自由を守るという原則に反発している」と懸念。諸外国からも、「日本はアカデミーの独立性・自律性を侵害するような国なのか」という非難と驚きの声が発せられるなど、国際的な信用問題に発展しかねない事態となっている。

 

会員の任命を拒否した菅総理は、その根拠となる明確な理由を、学術会議はもとより、市民社会を形成する私たち国民へ公開の場で開示し、説明責任を果たすとともに、自ら生み出した学術会議の会員欠員状態=違憲状態=を速やかに解消するべきであると、東京・生活者ネットワークは声明し、要求します。

 

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