18歳選挙権~若者参画・政治教育を前に! 若者と政治をつなぐために今、考えたいこと
日本では、じつに70年ぶりの改革となる「選挙権年齢を18歳以上に引き下げる」改正公職選挙法が今春、成立した。新たな政治参加システム18歳選挙権は、公布後初の国政選挙となる来夏の参院選から適用されることから、高校3年生の一部は投票に参加することができるようになる。若者が政治への関心を高められるような場の提供と同時に、将来を担う若者世代に焦点をあてた政策が提案され、これまで以上に実現されていく、社会変革の契機とすべきときがやってきだ。
18歳選挙権にかかる新たな文科省通達に注目が集まる10月29日、生活者ネットワークは、【18歳選挙権~若者と政治参加[若者と政治をつなぐために今、考えたいこと]】(都議会生活者ネットワーク主催)と題して緊急学習会を開催した。
◆18歳選挙権~若者と政治参加 ~若者と政治をつなぐために今、考えたいこと~
学習会講師の高橋亮平さん(中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事)は、1976年生まれ。高校時代に生徒会長を務める中で、千葉県で「生徒会連盟」を結成、批准間もない子どもの権利条約をベースに「生徒人権宣言」を行い、大学時代には、選挙権年齢引き下げと政治教育の充実を求める「NPO法人Rights」設立に、中心メンバーの一人として参画。生活者ネットワークとRightsとの関わりもこの頃に遡るのだが、設立と同時にRightsは、◆選挙権年齢をまず20歳から18歳に引き下げる、あわせて義務教育段階での「政治教育」を充実させ、段階的に16歳選挙権を実現に向ける、◆被選挙権年齢においては当面、現行の成人年齢である20歳に引き下げるよう働きかける――に、その目標を置き本格活動を開始。Rights主催の「模擬選挙」を各地で実施しながら、「選挙権年齢の引き下げに関する国会議員アンケート」や各党を招いての「国会議員シンポジウム」、また、世界から10代~20代の若者が集った3日連続の「Rights国際フォーラム」などをたて続けに開催。さらにスウェーデン、ドイツ、イギリスなど諸外国の子ども若者参画、シチズンシップ教育や政治教育にかかる事例研究を進めてきた。今回の法改正に向けては、高橋さんは国会で2度参考人として意見陳述したほか、様々にロビー活動などを展開、Rightsのメンバーらとともに18歳選挙権の実現に大きく寄与してきた。学習会で高橋さんが改めて語った、Rightsの足跡、折々の活動や社会への働きかけそのものが若者参画の場であり、若者の政治参加の実践であった。
18歳選挙権の実現で、すでに文科省から副教材などが提示されてはいるが、十分とは言えず、この日の文科省通達にあっても、有権者になる生徒がいることを踏まえ、校外など学校活動に影響しない条件付きで高校生の政治活動を容認、教員には政治的中立の徹底を求め、繰り返し注意を促すようなかたち。しかし、それでも今回の見直しは、高校生のビラ配布や集会参加さえ厳禁としてきた先の通達を46年ぶりに見直したもので、このことは、憲法改正・国民投票法とのからみがあるにしても、Rightsに連なる若者世代が勝ち取った大きな成果であるといってよいと思う。
学習会では、今後さらに注目が集まっていく中、その現場は、自治体レベルへと移行していくことから、基礎自治体で何ができるか、どのように働きかけるかについて、次のようなテーマに焦点を当て問題提起が行われた。
◆どうすれば若い人たちが、今まで以上に政治に興味・関心を持ち、参加してくれるようになるか
◆そのための、子ども若者参加・参画の場、方法をどう用意すればよいか
◆中立を旨に義務教育や高校教育の場でのシチズンシップ教育、政治リテラシー教育などをどのように豊かに組み込んでいけるか
◆そもそも、若者が求める政策は提起されてきたか――
これら論点について高橋さんは、「若者(中高生)の政治参加」には、自治体も教育行政も当面二の足を踏むであろうが、まずは生活者ネットの真骨頂なのだから「いまこそ、さらなる子ども参加からていねいに政策提案と実態づくり」を、同様に生活者ネットの政治スタイルである女性・若年世代や市民の政治参加手法をベースに、改めて「市民参加の促進、地域住民との連係で学校をひらく働きかけ」が考えられるし重要だという。また自らの実践経験も踏まえ、「生徒会活動」を中心とする学校運営への子ども若者参加を促進することで政治リテラシーの醸成は可能ではないか、と示唆。18歳選挙権の実施を機に、与えられた民主主義、与えられた生徒会活動・PTA活動からの脱却・変革が可能ではないかと示唆する。
先進的な若者政策を展開するスウェーデンでは、そもそも若者政策や学校教育の執行を担当している庁のほか、若者が自治体や学校運営に参画することを促進する全国規模の全国若者会、全国生徒会、模擬選挙を当然のプロセスとして行っている学校選挙、若者の声を政治に届ける全国青年組織協議会、小学校、高校、市民大学、政党青年部など、10代や若者の政治参加参画をシステムとして捉えている組織体が全部で13にも及ぶ。政府が若者政策を立案・立法に向けるにあたっては、企業セクターに肩を並べて、先述の全国青年組織協議会もまた政策当事者としてヒアリングを受けることが当たり前に行われる。同様のしくみが見られるドイツでは、街中に子ども若者が政治にアクセスできるセンター機能が存在する。そしてドイツでは、15年も前から10代が中心の若者組織が「選挙権年齢の全廃(赤ちゃんからの選挙権付与)」を大きく掲げ、活動を続けている。政治への参加・参画が早ければ早いほど、その後の政治への関心が高まることもまた諸外国の事例(すでに世界の85%の国が18歳選挙権を実施。オーストリアでは8年前から16歳選挙権が実現)が示している。この先行例を力に日本でも、自治体から、地域から若者とつながって社会変革を実現していくときなのだ。
さらに、若者政策を考えるにあたって高橋さんが力説したキーワードに「PPP:パブリック・プライベート・パートナーシップ」がある。PPPの中には、すでに自治体で実施されているPFI、指定管理者制度、市場化テスト、公設民営方式、さらに包括的民間委託、自治体業務のアウトソーシングなども含まれるが、これまでの民間活用との違いは、PPPは、たとえば事業の企画段階から民間事業者が参加するなど、より幅広い範囲を民間に任せる市民参画手法であることだ。公・民が連携して公共サービスの提供を行うスキームが不可欠となる今後は、これらを担う、これまでの民間セクターを越えた提案力・企画力が、公・民ともに問われることになり若者世代の存在もまた不可分になるということだろう。
今では政治用語として一般化している「世代間格差」という捉え方を自身で発案した高橋さんは、同様に「世代間会計」という図式を提起。少子化と相俟って高齢世代と子ども若者世代との間にある、生涯にわたって一人当たり公的サービス提供における圧倒的な世代間格差を示し、若者政策がなぜ必要か、なぜ必然か、その根拠にも言及。ようやく子どもの医療費助成・無償化や高校無償化、子ども子育て新システムといった乳幼児期からの公的サービスやセーフティネットの重要性が政治課題化されてはいるが、世代間格差をどのように解消に向けるかは、子どもの育ち支援や教育領域を含めて、依然立ちはだかっている大きな社会問題だ。PPPによる新しい公共政策もまた、地域から、自治体から、18歳選挙権の実施を機に「若者と政治をつなぐためにいま、考えたいこと」の重要な論点の一つであることを改めて確認。いずれにしても地域力・市民力・自治体力、そして生活者ネットの提案力が試される時代がやってきたのだと認識する、多くを共有できた学習会となった。実践あるのみ!