市民社会を強くするために ~安倍政治の問題点と新しい政治の方向性を問う:政治学者・杉田敦さん講演会を開催~
市民社会を強くするために ~安倍政治の問題点と新しい政治の方向性を問う:政治学者・杉田敦さん講演会を開催~
5月15日夕方、安倍首相は自らの私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を受ける形で、集団的自衛権の限定的行使を検討する考えを表明した。
東京・生活者ネットワークは同日・同時刻、杉田敦さん(政治学者・法政大学教授)を講師に、“市民社会を強くする”“市民政治を広げる”ために講演会を開催。「市民政治の課題」を演題に、安倍政治の問題点と新しい政治の方向性について学び、課題を共有した2時間から報告する。
◆前史としての政治改革を問う
杉田さんはまず、前史としての政治改革の問題点を取り上げた。長すぎた保守政治に対して、「政治腐敗や政策的な行き詰まりを、すべて政権交替によって解決できる」「選挙制度改革で政権交替が可能になる」と、少なからず考えた私たち国民の側に問題はなかったか。
不透明な政治への批判として「マニフェスト」への期待が高まったが、そもそも野党が数字を出すこと、政策転換を数字で指し示すことは困難な状況にある。民主党は、「マニフェスト違反」への過剰な批判をかわすことができず自壊した。だが政治は本来衆智を集めて調整していくべきものであり、マニフェストを追求すればよいのであれば、議会はお飾りになってしまう。政治主導を掲げた民主党だが、権力は引き算でなく掛け算。官僚を外すのでなく「官僚を使う」ことが必要だった。
また選挙制度においては、中選挙区制では派閥の弊害はありつつも、例えば自民党であっても、多様な意見を持つ人が出てきたが、小選挙区では、同じ考えの人しか出てこないという弊害は否めない(この問題において東京・生活者ネットワークは、小選挙区比例代表並立制:1996年が、当初の期待を裏切り大政党にのみ有利なものとなっていることを批判してきた)。
◆安倍政治の問題
安倍政治の最大の問題として、杉田さんが挙げたのは、安倍首相の「非立憲主義的民主主義観」(一元主義)だ。民主的権力(高い支持率)を絶対化し、これを統制することは非民主的とみなしている。政治のスピードアップはできるかもしれないが、勢い権利や原則は喪失していく。それに対抗するのが「立憲主義的民主主義観」(多元主義)で、民主的権力に対して、憲法や司法などで統制することを求めている。基本的人権など憲法原則を守ることは基本となる。
秘密保護法は極めて拙速、乱暴に進められ安倍政権への不安が高まった。杉田さんは機密そのものは必要としても、情報公開のしくみ、第三者機関による監視が必要不可分であり、情報公開を実体化させるために、市民が情報を取りに行くことが大事であると強調した。
憲法問題においては96条改憲は憲法改正条件を緩める「裏口入学」、解釈改憲は権力制限規範としての憲法を否定するものと一刀両断。安倍首相の私的諮問機関である安保法制懇は、「安全保障は憲法に優先するので、憲法解釈にこだわるな」というが、杉田さんは安全保障も憲法も大切というあたり前の立場であることを前置きし、改憲なら96条に基づく条文改正をすべきだが、東アジアでの有事に対する危機感をことさらに駆り立てて、国民の幸福追求権を持ち出してまで集団的自衛権の行使容認を打ち出すことに対して反論。いま東アジアに必要なのは、緊張の緩和であるとする。
◆行き詰まるアベノミクス:経済政策へのオルタナティブを示す
第2次安倍内閣では経済政策:アベノミクスを優先させたが、輸出産業は増益でも、食品・燃料の値上げで市民生活は困窮している。大衆には課税を断行し、法人税(控除を考えればすでに低いにもかかわらず)を下げて企業を優遇・支援しても、株は海外投資家が保有し、国内には還流せず、経済政策の行き詰まりを見せている。
◆新しい政治の方向性
いま必要なのは、「侵略されれば生活もなにもない」という強迫に対抗し、治安主義的な安倍政治に断固ストップをかけること。そしてアベノミクスの行き詰まりに対して、どこにオルタナティブを見出すかということだ。安心して働ける雇用環境で人々が働くことによって、持続可能な経済的活力を取りもどすことや非正規雇用と正規雇用の格差解消(同一労働同一賃金)も必要だ。配偶者控除については、廃止なのか、引上げなのかの議論も必要との示唆。地方分権の可能性VS地域間格差(山間地など)をどうするか、公共事業頼みの保守政治とも、もちろん新自由主義とも道筋を異にする、サスティナブルでオルタナティブな経済政策を打ち出せるか。野党は政治の優先課題を明確に打ち出すことが求められている。
◆◆ 「みんなで決めよう!『原発』国民投票」代表でもある杉田さんは、選挙が必ずしも民意を代表していないことに言及。原発について聞かれれば脱原発派が多いが、選挙は政策パッケージ
で選ぶことから、国民の関心が高い景気、雇用、福祉に関心が集まりがちで、それは、まさに第二次安倍政権の現出に表れている。「原発」を選挙の最大の争点にすることは難しく、したがって都議選でも、都知事選でも脱原発が勝つことはできなかった。選挙の結果で推し量れない、民意を吸い上げられない、しかし国民にとって切実で重要な問題については国民投票など、他の方法で吸い上げる。欧米ではすでに常識の、立法府や行政府が主権者である国民の意思を確認・尊重して政治や行政に反映する国民投票に道を開くことも脱原発運動の課題であろう。
◆◆◆ 東京・生活者ネットワークがこれまで、政治の場に乗り難い環境などの問題に取り組んでいることを評価・検証する場ともなったこの日。ローカルパーティとして、グローバル経済に対抗する地域から発信する、持続可能な経済政策、働き方や働く環境整備などの提案を、諦めることなく、地域から実態をつくりながら打ち出すことが必要なのだと、改めて確信し閉会となった。