原発事故子ども・被災者生活支援法「基本方針(案)」に異議! 法の理念・被災者の選択の権利保障は、極めて不十分
復興庁は8月29日、それまで1年以上も棚上げ状態に置かれていた「原発事故子ども・被災者生活支援法」を実施にむけるための基本方針案をまとめ、翌30日これを公表。来る9月13日を期限にパブリック・コメントを求めている。
しかし、示された基本方針案は、「民間団体を活用した子ども・被災者支援の拡充および新規実施」や「被災した子どもの県外での自然体験の拡充」「甲状腺検査スタッフの確保、人材育成支援」などに見るべき施策があるものの、被災者一人ひとりが居住・避難のいずれを選択しても、自らの意思によって生活再建にむかうことができるようその権利を保障し、支援する「原発事故子ども・被災者生活支援法」の目的・理念とは程遠い。また「基本方針に関する施策のとりまとめ案」の内容も、今年3月15日に復興庁が公表し各方面から見直しが求められていた「被災者支援パッケージ」の域を出ず、その多くは既存の施策を組み替え再構成したに過ぎず、支援法の目的・理念とは遠いものと言わざるを得ない。
法の第8条により、一定の被曝線量によって基準が定められるべき「支援対象地域」においても、線量基準は特定されず対象地域は福島県内の33市町村に限られた(福島県中通りの福島市、二本松市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村、郡山市、須賀川市、田村市(一部)、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町、白河市、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村と、浜通りの相馬市、南相馬市(一部)、新地町、いわき市)。また、法の第1条が求める「被災者」の定義に基づき「準支援区域」を設定しているが、これも「施策に関する基本的な事項」で定める個別施策ごとに支援対象とするという具体策の見えないものとなっている。被災地の子ども支援団体や、全国各地で原発事故の被災者を支援してきた市民団体などは、被曝線量基準を、公衆の被曝限度として国際基準、国内法令で定める「年間1mSv」とし、それ以上の地域を支援の対象とするよう求めてきたが、結局この要望は生かされなかった。法の根幹をなす「一定の基準」以上の地域を支援対象地域として設定するのでなければ、被災者の居住・避難の権利は確立、保障されない。
さらには「福島避難者帰還等就業支援事業」に表れる「帰還」を促すような施策が各所で展開されているが、しかし「避難」に対する新たな施策は見当たらない。また「政府指示の避難区域からの避難者」への就労支援策拡充が謳われたが、ここでも避難の権利は保障されず、真の就労支援の強化とはなっていない。放射線対策、医療・健康管理分野では、市民が切実に求めていた低線量被曝による幅広い疾病の可能性への対応は不十分なまま。福島近隣県を含めた健康管理に関する支援においても、そのあり方を検討するための有識者会議を開催すると書かれるばかりで具体策には言及していない。
3.11から2年6カ月。福島第一原発からの放射能汚染水漏れが止まらない。すでに対策は時期を逸し、打つ手のないまま、事態はむしろ深刻化している。この状況は、国際原子力機関(IAEA)も「最大の課題」と指摘する事態であり、国際原子力事象評価尺度(INES)「レベル3(重大な異常事象)」と原子力規制委員会自身が認める事態である。海洋汚染はもとより、放射能に汚染された魚が世界の海に拡散していくことになるだろう。安倍政権が進めようとしている原発再稼働や原発輸出などは論外の、真に深刻な事態なのだ。
政府・安倍政権がなすべきは原発政策からの一日も早い撤収であり、そして何より、市民が切実に求めてきた「原発事故子ども・被災者生活支援法」の理念にかなった具体策の、滞りない実施である。そのためには、たった2週間を期間とする不十分なパブリック・コメントではなく、政府、復興庁は被災地に居住する人や各地で避難生活を送っている被災者と双方向の意見交換の場をこそ設定し、施策の充実にむけるべきである。
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