子どもの権利条例東京市民フォーラムのつどいが開催されました
“いじめ”はなぜ繰り返されるのか
子どもたちのSOSと子どもオンブズの役割・活動
今年7月、大津市の中学生自殺(前年10月)が「自殺の練習」といういじめによって引き起こされたのではないか、というショッキングな報道があり、また、「いじめ自殺」問題が噴出しました。この事件以来、品川区立中学校や兵庫県立高校など相次いでいじめ自殺事件が起こるなど、いじめの問題が深刻化しています。今夏、東京都教育委員会が都内の公立学校2184校を対象に実施した緊急調査では、いじめと認知される件数に疑いも含めた総数は1万1507件とされ、都教委は、個々の事例について対応状況をまとめるとしています。最初にいじめ自殺が社会問題化したのは、1986年に「葬式ごっこ」で注目された東京・中野区富士見中学校の事件でした。その後1994年には、愛知県西尾市の東部中学校でいじめ自殺が起き、「遺書」の公開で波紋が広がりました。さらに、2005年滝川から始まったいじめ自殺「虚偽報告」問題、福岡のいじめ自殺、「自殺予告」問題などがありました。
いじめが深刻になる中で、この四半世紀、日本の教育界は総力をあげて「いじめ対策」に取り組んできたはずですが、しかし、その努力とは裏腹に、いじめはさらに悪質にかつ深刻化してきています。
東京・生活者ネットワークも呼びかけ人に名を連ねる、第12回「子どもの権利条例東京市民フォーラムのつどい」(代表:喜多明人早稲田大学教授/事務局長:森田明美東洋大学教授)が、「“いじめ”はなぜ繰り返されるのか 子どもたちのSOSと子どもオンブズの役割・活動」をテーマに、12月22日、東洋大学白山キャンパスで開催されました。
■基調講演―「いじめ」問題をどう捉え、対応すべきか
基調講演に立った喜多明人さんは、「いじめはあることを前提として、大きくしない対策こそが重要」「一人一人が、かけがえのない権利の主体であることを子どもが知る」「学校や教育委員会をこれ以上追い詰めるのではなく」「子どもの育ちを支え、学校を支援する地域のしくみ:子どもの権利条例が今こそ必要である」と前置き。「過度の競争社会が子ども・教育現場に及んでいる実態が解消されないでいる」「子どもたちが関係をつくれないでいることや、自己肯定感の低下によって子どもたちがストレスを抱えている」一方で、管理教育により「子どもたちの『自治』力が失われ、安心して相談できる環境もないことが深刻化の原因」と分析しています。
<なぜ、いじめは解決しなかったのか…>
1994年、日本が子どもの権利条約を批准したのちも、現場で、
子どもに「権利が入らない」と感じていたという喜多さんは、学校規律や規範教育を求める教育基本法改正やいじめる子どもへの出席停止、警察との連携を求める文科省通達(2007年)、厳罰化一辺倒の少年法改正など、そもそも、いじめ対策に子どもの権利の視点がなかったことが、いじめの深刻化を招いているといいます。また現在、自民党を中心に検討されている「いじめ対策基本法」は、いじめた子どもを出席停止にするなど子どもたちの関係の修復の視点が欠落していることに、大きな危惧を持っている、と表明されました。
<急がれる、学校を支えるシステムの構築>
「川西市子どもの人権オンブズパーソン」は子どもに寄り添い、代弁する第三者です。子どもからのSOS発信を受け止め、権利学習、エンパワメントへの権利を保障すると同時に、周囲が「安心して通報できる環境づくり」も担います。
一方、これまでは、原因究明は結果的に「過失責任」の立証につながるため、学校・教育委員会は、「いじめ問題は、本人に責任がある」という解決の仕方でうやむやにしてきました。当然、被害者・保護者の不信が募ります。ユネスコは教員の地位に関する勧告で、「教員に損害賠償責任が課せられる危険から教員を守らねばならない」としています。喜多さんは、過失責任追及ではなく、徹底的な原因究明こそが再発防止につながるのであり、子どもの権利擁護につながる、そのために、無過失責任にもとづく「学校事故損害賠償法」制定の必要性を強調しました。
不登校の子どもたちが主体的につくるもう一つの学びの場、居場所、オルタナティブな学校として発足した「東京シューレ」は、「いじめのない学校」として、近年あらためてその活動が注目されています。一人ひとりの違いを認め、「ともに生き・学ぶ」「主体的な学びを保障する」などを実践する子ども参加型の学校運営が、結果としていじめが発生しない学校づくりに結び付いていることが、示唆に富んだ事例として紹介されました。
■シンポジウム―子どもたちのSOSと子どもオンブズの役割・活動
第2部のシンポジウムでは、フォーラム運営委員の荒牧重人さん(山梨学院大学教授)の進行のもと、まず片岡玲子さん(目黒区子どもの権利擁護委員/臨床心理士)から目黒区子どもの権利擁護委員会「めぐろ・はあと・ねっと」のしくみと活動実績が、続いて池田清隆さん(東京都子どもの権利擁護相談専門事業専門員/弁護士)から、東京都子どもの権利擁護相談専門事業の内容と実績が報告。星野弥生さん(世田谷チャイルドライン運営委員長)からは、せたがやチャイルドラインの実践が詳報されました。共通しているのは、当事者である子どもたちの訴えを直接、専門家や訓練を受けたおとなが受け止めるしくみになっており、話を聞いてもらうことで子どもたちが、自己肯定感を高め元気になることです。
また、特別発言として豊島区子ども家庭部子育て支援課長・活田啓文さんから豊島区子どもの権利条例のもとづき設置され実施3年目となる「豊島区子どもの権利擁護委員制度」のしくみと実績について、世田谷区子ども家庭部子育て支援課長・竹中大剛さんからは、世田谷区子ども条例の改正と、それにともない第三者的な子どもの相談救済機関「子どもの人権擁護委員制度」が設置された経緯と今後について、報告を受けました。自治体が条例を制定することで、子どもたちの声を聴き、支援するための施策を確実に進める環境整備につながることが、それぞれの自治体の取り組みや実績から確認されました。
■全体討論から―
どうしたら、いじめを解決できるのか? とくに、いじめ自殺という子どもの生命・生存権の危機という緊急な事態に直面して、子どもたちのSOSをいかに早期に発見し、かつ救済をはかっていくか? そのためには、子どもたちが安心して相談できるシステムをどうつくるのか? 訴えられたSOSについてどう調査権を行使できるのか? 人権侵害が確認されたあとの救済機関などにどうつないでいくか? 第三者機関による相談救済システムを働かせていく場合には、いじめが発生している学校とどう連携していくのか?……などなど全体討論では、シンポジウムで紹介された動きを踏まえつつ、子ども(権利)条例の制定、市民との協働などを視野に入れて、子どもが安心して相談し、救済できるしくみづくりについて深め合う場となりました。
「不登校の子どもたちへの対応として学習の権利を保障してほしい/子どもの学習の権利が学校教育しか認められていない現状はおかしい/いじめから逃げる権利を認めてほしい/安心して休む権利を認めてください/学校復帰を目的とした政策をすすめないでください」と東京シューレのスタッフ、佐藤さんが、子どもたちの声を代弁した、それらの発言は、当事者の声として会場にいたすべてのおとなの心に響くものでした。
多くの子どもたちが、たった今もいじめで苦しんでいます。子どもたちの声をきちんと受けとめ、子どもに寄り添って解決していく責任がおとな社会に求められています。今必要なのは、子どもたち自身が「子どもの権利」について深く考える機会をつくること、その権利を守るためにおとな社会が全力を尽くすことです。子ども支援の相談・救済制度や、子どもを支える子どもの権利条例制定に向けて、各自治体での活動が問われています。