震災から1年半 被災地の子どもたちが疲弊している! 報告2
〜第5回東日本大震災子ども支援ネットワーク意見交換会から〜
【市民社会が支える被災地における子どもの学習支援】
●中鉢博之さん(NPOビーンズ福島 被災子ども支援部門理事)
ビーンズ福島は震災前には不登校の子どもの学習、居場所支援に取り組んできた。子どもたちは3月11日の発災後1次避難所(体育館)、2次避難所(旅館・ホテル)、仮設住宅、借り上げ住宅など環境への適応を余儀なくされている。転校や生活の変化に伴うストレスが大きい、落ち着いて学習できる環境にない、避難生活で生活のリズムそのものが崩れてしまった、避難元の地域と避難先の地位での学力格差などがあり、心のケアや学習支援など中長期にわたっての支援が不可欠。親が失業などで希望をなくしている場合も多く、狭義の勉強指導だけでなく、学ぶ意欲そのものを支える支援が重要と「うつくしまふくしま こども未来応援プロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトは、①子どもの学習と遊びを支援し、子どもの元気を取り戻す②大人が子どもたちに寄り添う地域をつくる③大人同士もつながりあえる地域をつくる――ことを目標としている。仮設住宅は学校やもともとの地域が異なるなど、子どもを持つ世帯が孤立しがちである。子どもを支えていく力を地域や保護者が取り戻せるよう、仮設住宅の集会所に訪問する形で支援を始めた。小学生はスクールバスで帰宅後、17時から18時20分まで集会所で学習支援を受け、おやつをもらって帰宅。中学生は18時半から20時まで学習支援を受けている。
成果として子どもたちとの信頼関係が良好になり、地域によっては保護者の協力が得られるようになっている、参加人数が増えてきたなどの成果がある。が、子どもを持つ家庭のすべてが仮設に入れているわけでなく、みなし仮設住宅への支援が届けられない、支援にかかわるボランティアやマンパワーの不足や資金的な見通しがないなどの課題が出された。
●片貝英行さん(NPOキッズドア事務局長兼東北復興支援担当)
親の貧富が子どもの教育格差、体験格差などの機会損失につながり、希望を持てない子どもが増える中、貧困の連鎖を解消するための活動を展開してきた。震災の影響により制限された放課後の子どもたちの安全で健やかな居場所を補完するために、地元保護者らを指導員として育成して雇用する形で宮城県南三陸町立戸倉小学校、志津川小学校で放課後子ども見守り事業を実施。震災などで困難を抱える中3生向けには、民間からの資金助成を受け、仙台市教育委員会共催で無料の受験対策講座[タダゼミ][ガチゼミ]を行っている。
福島県いわき市に避難している双葉郡楢葉町の住民対象には「ならはキャンパス」を開講。放課後の学習支援「ゆずり葉学習会」@仮設校舎、夜間の学習会「ゆずり葉学習会in空の家」@コミュニティセンターなどで、世代を超えた住民の交流、地域コミュニティ再生に向けた必要な資源の発掘・絆の強化を目的としている。
震災から1年半、避難所での遊びと学び、心のケアから学習の遅れ、欠如を取り戻す支援、さらに震災体験をバネに復興を支える人材輩出とニーズは変化しており、高いスキルを持つ人材の投入が長期間必要となっている。資金面でも政府予算の獲得と速い執行、事務局運営費の獲得、単年度予算では支援計画が立てづらいなどの指摘が。また、民間助成金は東北被災県への支援優先の傾向があるが、広域避難者のストレスは大きく、これら対象者への支援の必要性が強く訴えられた。
【山田町ゾンダハウスがめざすもの】
●森田明美さん(NPO子ども福祉研究所理事)
山田ゾンダハウスは国際奉仕団体からの寄付を受け、NPOこども福祉研究所(理事長:森田明美)が岩手県山田町で企画・運営する常設の居場所。2011年8月、誰でもが無料で参加できるおやつ付き自習室として始まった。建物2階の30畳ほどの自習室は平日は14時から20時、土曜日は12時から19時まで開かれ、中学生490人中170人が登録、毎日30~40人が利用している。現在は手作りの軽食の提供と学習支援が行われるようになり、地域の被災者でもある人たちが雇用されている。子どもたちが運営に参加していくことを基本に子ども委員会がつくられ、2階スペースの愛称を「おらーほ」(自分たちの家)とし、学習スペースの使い方などを話し合っている。また、以前からあった町民の集い・憩いの場「街かどギャラリー」がゾンダハウス1階に併設されていることで子どもたちの見守り機能や子どもたちとの交流も生まれ、小学生にとっても気軽に立ち寄れる拠点となっている。
多数の民間企業や団体からの寄付・協力(食材、教材、備品など)や大学生ボランティアの派遣、地元の人材の雇用や地元での消費がおこなわれる「民・民」の取り組み。子どもと市民の参加と協働によって希望の循環をつくり出したいと森田さんは力説している。
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震災から2回目の夏休みが終わった。昨年は異常な状況の中で精いっぱい頑張ってきた被災地の子どもたち。子どもたちにも大人にも疲れが表れている。さまざまな団体が学習支援を中心に子どもたちの居場所や生活支援を行っているが、遊びや学習、居場所の環境整備は依然として不十分で、届いていないところもたくさんある。現場ではニーズが見えていて、支援したくてもマンパワーも資金もたりないと現状が次々に報告された。当日は文部科学省や厚生労働省から被災地での放課後の学習支援が、復興庁からは子ども支援への予算づけについても報告されたが、現場からの報告を受けて、国会議員からも「学習支援、居場所に来られない子どもの把握が足りないのではないか、子ども支援NPOとの連携強化を」(岡崎参議院議員)と求める声や、「予算が未執行のものも多いのは、現場のニーズにこたえきれていないためではないか」(大河原参議院議員)などの指摘があった。
子どもたちが生きる力を回復するためには、日常的な支援を通して大人社会からの援助が必要なことは言うまでもない。国・県・基礎自治体がそれぞれの役割を果たし、さらに市民社会と行政/教育委員会が協働して子どもを支援できるよう、連携を強めなくてはならない。支援体制づくりにおける東京都の役割もまた、大きい。