見直し時期にきている東京都の水政策
東京・生活者ネットワーク(世田谷)
私は生活者ネットワーク都議団を代表して、第146号議案「八ツ場ダムの建設に関する基本計画の変更に関する意見について」に反対し、その他の知事提案の議案に賛成する立場から討論を行ないました。
第146号議案は、特定多目的ダム法第四条第四項にもとづいて、国土交通大臣が行なう、多目的ダムに関する基本計画の変更について、都知事に意見が求められたものです。その基本計画の変更は、工期を「平成22年度までの予定とする」という「工期」に関する事項のみの変更です。私たちは、この基本計画の変更が「工期のみ」の変更で終わることの問題をまず第一に指摘したいと考えます。
私たち生活者ネットワークは、水源を他県に過度に依存することから脱却し、地下水を水源として位置づけるなど「東京に水循環をとりもどす」という視点で、地域で長年にわたる運動を展開してきました。また、「ムダな公共事業を見直し将来世代へのツケをなくす」という視点から、八ツ場ダムを含めて、未着工のダム計画は中止すべきとの提案を従来から行ってきました。いうまでもなく、八ツ場ダム建設による環境破壊、関係住民の生活への影響は無視できません。ダムが完成すれば、名勝あがつま渓谷の大半とひなびた温泉地など5地区340世帯が水没すると言われております。すでにアメリカでは、歴史的な政策転換として新たなダム建設は中止し、農業用水の転用や都市用水の節水による問題解決をめざしております。こうした流れは世界的であり、国内でもダムを作り続けてきた政策に疑問の声が寄せられ、長野県でも見直しが始まっているのです。
しかし、仮に八ツ場ダムは必要であるとの立場であっても、果たして基本計画の変更は「工期」だけで良いのでしょうか。いうまでもなく、この公共事業は、将来の都負担を決めていくものであり、約1000億円の都負担という試算もあります。ダムの目的に照らす基本計画の見直しによって、都の負担が削減される、あるいはダムがなくとも安定的な水供給が展望されるのであればそれにこしたことはありません。
そもそも八ツ場ダム計画は、昭和37年に策定された「利根川水系における水資源開発基本計画」に端を発します。渇水ピーク「東京砂漠」といわれた昭和39年には、需要の大幅増が見込まれ、ダム開発による安定した水資源確保が最優先されてきました。水需要に見合う施設の拡張を行い、昭和63年には、給水普及率100%を達成しました。しかし、こうした中で策定された基本計画は、現在の環境変化の中で、大きな見直しを余儀なくさせられているのではないでしょうか。
まず第一に、ダムの目的の一つである洪水対策についてです。基本計画にある洪水調節は、実に50数年前の47年のカスリーン台風規模の雨水被害を想定しています。むろん最近の異常気象における降雨量は、同じ程度値が出ているといわれています。しかし、この議論は、水源地における「緑」の状況を無視しています。1947年当時は、材木の無計画な伐採で水源地における保水能力は貧弱でした。しかし、今日では群馬県の森林は利根川水系8ダムの2倍の保水能力があるとい言われています。すでに47年当時の基準はおかしいのです。
第二の問題は利水計画です。
東京の人口は昭和63年に1,189万人の人口をピークに減少傾向に推移し、平成27年では1,140万人という予測です。こうした人口動向から水需要は当然減少傾向を予測することができます。例えば 茨城県では、平成32年には、県人口予測が約320万人とされ、都市用水の需給推計が出され、ダム開発や霞ヶ浦導水事業をこのまま続ければ、県内1日当たり約45万トンの余剰が生じることが分かりました。新たな水需要推計が明らかにされたことから、報道によれば県は、水資源開発水量の削減も検討するとのことです。私はかつて基本構想において水需要を下方修正すべきとの提案を行いました。東京都としても、人口や世帯数の予測などを考慮し、利水の必要性を抜本的に見直す時期に来ています。
私たちの暮らす東京では、道路や建物によって地表が覆われて土壌の保水機能が低下し、下水道の普及によって河川は下水処理水の水路と化し、さまざまな生物を育み市民の心を和ませる水辺空間は失われ、緑の喪失とあいまって、ヒートアイランド現象に拍車をかけています。東京の水政策を、水源を他県に依存し、ダム建設するこれまでのあり方を根本から変え、都市の貴重な水源である地下水や雨水利用への取り組みを強化していく必要があります。今こそ、行政、事業者、地権者、市民が、連携して水循環の回復に取り組むことが必要です。私たち生活者ネットワークは、こうした観点からすべての情報を開示し、NPOを含めた水政策の点検・再構築を行い、再度、水循環再生のための総合的な水管理のルールをつくることが必要です。