高橋哲哉さんを迎えて−東京・生活者ネット憲法学習会
憲法を哲学する
2007年、活動の本格始動となった12日、東京・生活者ネットワークは、憲法をテーマとした標記の講演会を開催した。安倍政権が成立し、続く臨時国会では教育基本法の改正が数の力で強行され、憲法改正が具体的な政治日程に乗せられつつある。こうした情勢から、広く市民の参加を募り憲法と日本の政治の行方を考えるきっかけにしようと、講師に哲学が専門の高橋哲哉さん(東京大学教授)を迎え、企画したものだ。高橋さんは「今日の演題は『憲法を哲学する』ということであるので、この国の政治が今どこに向かっているのか、私の視点から指摘してみたい」と、話を起こした。
憲法とは? 今、日本の政治はどこに向かおうとしているのか
講演では、まず教育の憲法である改正前教育基本法と主権在民を明記した憲法の価値を認識することに眼目がおかれ、憲法99条を取り上げ、近代憲法とは国民が国家権力を監視し、しばるためのものであることを指摘。後半では、特に9条の危機に焦点を当て、9条改正は自衛隊の現状追認に留まらず、海外における武力行使を可能とするためのものだと警鐘をならした。
——安倍晋三氏は「戦後レジームからの脱却」を掲げているが、そのための柱が憲法・教育基本法の改正であり、今そのうちの一つである教育基本法が変えられた。つまりは、9条を変えて新しい日本軍を立ち上げ、教育基本法を変えて愛国心教育を教育の目標とし、教育全体を国家の意のままのものとする。加えて、現在は一宗教法人である靖国神社の国営化が重なったとき、『日本軍』『愛国心』『国営靖国』の3つが揃うのであり、先の敗戦によって解体された、かつての国家護持体制の本質的な部分が新しい形で復活するということだ。
人権の世紀と言われる21世紀となった現在、私たちは、時代の先駆者たちが想像だにしなかった「反動の嵐」の真っ只中にいる。集団的自衛権行使への解釈変更、防衛庁の省昇格と自衛隊法改正、共謀罪、海外派兵恒久法、閣僚の核武装論議の容認、外相の靖国の非宗教法人化・国営化発言…と続く、その先にあるのは9条改正であり、「戦後民主主義」と「平和主義」に最後の全面攻撃がかけられている。
この「反動の嵐」に対して、いかに立ち向かい撃ち返していくべきか。しかし、ここで肝心なのは、「戦後レジームからの脱却」に抗するために、「戦後レジームの擁護」をすれば済む話ではないということがある。すなわち、象徴天皇制に顕れる日本国憲法体制そのものに内在する矛盾であり、日本国籍を一方的に奪われた在日朝鮮人、米軍統治が続いた沖縄の人々、植民地支配と開放をめぐるあらゆる問題、特に日本の戦後責任に関する問題であり、これらは依然として解決には至ってはいないからである。であるから、日本の「戦後民主主義」と「平和主義」はもっともっと先に、世界に開かれて行かなければならなかった、このことは今を生きる私たちに託された課題でもあるのだ。
ところが今、日本はそのスタート地点からも大きく後退しようとしている。ここまできてしまったこの流れを何とか変えなければならない。教育基本法は変えられた。けれども、現行憲法に照らし「この国の主権者は私たちなのだ」「国民という市民なのだ」と改めて深く確認して、民主主義を体現する。主権者として一人一人が声をあげていくことが大事となる——
講演の後、会場からの話題提供と質疑応答が行なわれ、今回の取り組みを今後も発展させていきたい声が聞かれた。さらに、「地域から、市民が政治を変える」ことの一点で結集することが共有され、この日の会は締めくくられた。
今年は、東京都知事選挙を皮切りに統一地方選挙、参議院議員選挙が予定されている。民主主義のピンチを最大のチャンスに変える年としなければならない。春の訪れも、もう間近だ。
▲当日はネットメンバー、市民ら約100名が参加。企画・進行は東京・生活者ネットワーク国政対策会議メンバーが担当。