地元関係者の同意も国民的議論もないまま、放射性廃棄物取扱いにかんする根本問題を無視――ALPS処理汚染水の海洋放出に抗議し、中止を求めます
地元関係者の同意も国民的議論もないまま、放射性廃棄物取扱いにかんする根本問題を無視――ALPS処理汚染水の海洋放出に抗議し、中止を求めます
2023年9月2日
東京・生活者ネットワーク
廃炉作業が続く東京電力福島第一原発。原発震災から12年、関東大震災から100年を間近にした8月24日、政府と東京電力は、東京電力福島第一原発から発生するALPS(多核種除去設備)処理汚染水の海洋放出を強引に開始した。政府方針によると、処理汚染水に含まれる放射性物質のトリチウムを国の放出基準の40分の1を下回るよう薄めて放出。現在保管されている処理汚染水だけでも、処分には今後30~40年を要する見通しとしている。
東京・生活者ネットワークは、放射性廃棄物取扱いにかんする根本問題を解決しないまま、国民的議論の尽くされないままの処理汚染水の海洋放出には断固反対を表明してきた。海洋放出が取り沙汰されてのち、地元住民や国民との意見交換の場である公聴会での相次ぐ反対意見や、何より地元漁業関係者らと書面で取り交わしていた「同意がないままの海洋放出はしない」約束を反故にする進め方など、民主的な意思決定過程を経ない「一方的な海洋放出」に、大きく異議を唱えざるを得ない事態となっている。「はじめに結論ありき」の今回の海洋放出に強く抗議するとともに、以下の論点について改めて問題提起するものである。
政府・東京電力は、福島原発事故で被害を受け続けてきた人々の苦しみに真摯に寄り添う路線変更を
——安易な海洋放出は、世界を震撼させた原発過酷事故を起こした東京電力の責任放棄であり、環境汚染を拡大させるばかりか、放射性廃棄物取扱いにかんする根本問題の解決とはなり得ない。
——放射性廃棄物にかんする問題は、長期間にわたる困難を伴う作業である。であるからこそ、どのような処理・処分方法がよいのかは、被害当事者や、多くの知見をもつ研究者らを含め幅広い議論が必要であり、選択の幅を広げておくことが不可欠である。今回の海洋放出のように、いったん放出したら回収が不可能、元に戻せないような方法は避けるべきである。東京・生活者ネットワークも賛同参加する「原子力市民委員会」では、当面は大型タンクなどで厳重保管し、例えば、モルタル固化処分を採用するなどの方法を代替案として示してきた。モルタル固化し積み置くことでトリチウムの量は半減期を含む120年間で1000分の1に減ることから、将来の土地利用も期待できると提言。しかし、政府・東京電力は、市民委員会や研究者らの示す代替案に真摯に向き合い、検討・協議する態度は見られない。
——加えて海洋放出には莫大な費用負担が伴うが、国民への積極的説明には至っていない。海洋放出の処理費用は、2016年の経産省の見積りで34億円とされていたが、実際には、現時点で海底トンネル等の工事費約430億円、風評対策費約300億円、漁業者支援基金500億円が計上、合計1200億円を超えている。かつ、今後30~40年の処理・処分期間にかかる経費などは不明なままである。
——放出する「ALPS処理水」は、トリチウム以外の放射性核種を排出基準値以下にまで取り除くと政府・東京電力はしているが、しかし、現在、未処理の汚染水が大量に存在しており、汚染の実態把握や分析は手つかずの状況にある。加えて、汚染水のALPSによる処理及び二次処理により放射性核種が吸着した高濃度の放射性廃棄物が日々大量に発生しており、これらの処分については先送り、方針さえも示さないまま「ALPS処理水」の海洋放出のみを開始した政府・東京電力の決定は場当たり主義、見切り発車と言わざるを得ない。
——そもそも福島第一原発の処理汚染水は、溶け落ちた燃料デブリに水が直に触れる「かけ流し」の状態にあり、多種多様な高濃度放射性物質が溶け込んだものだ。当然、他の、通常の原発から排出されている、主に原子炉の冷却に使った処理水とは全く異る、それ自体が危険極まるものだ。処理及び二次処理してなお、多種多様の放射性核種が存在する。原子力市民委員会では、燃料デブリ「かけ流し」自体を早急に再検討し、「空冷」に切り替えるなど、汚染水を発生させない対策にこそ道を開くべきと提起。しかし、政府・東京電力は、この提案にも当面応じる態度はない。
放出開始の24日に、中国政府は日本の水産物の輸入全面停止を表明した。水産物に限っても、中国は輸出先の第1位であり、2位の香港と合わせれば2022年度の合計は1,626億円で、輸出総額の4割を超える。政府は風評被害対策として補正予算と基金で計800億円を計上しているが、その額を大きく上回る被害が生じることになる。近隣国からも批判があるなか「海洋放出」を決定したことは、「はじめに海洋放出ありき」で進められてきた結果であり、そのマイナスの付けをこれまで復興に努力してきた漁業関係者に負わせることは到底許されない。
「ALPS処理水」の海洋放出に対する中国側の反発は予想できたことだ。問題の根源が、原発事故を招き、新たな敷地の確保や代替案の再検討もないままに、漁業者らの反対を押し切って海洋放出に踏み切った日本側にあることは明白だ。この問題に対して、ナショナリズムを煽るようなメディアの報道には、<いつか来た道>に繋がりかねない危うさがある。
よって、東京・生活者ネットワークは、ALPS処理汚染水の海洋放出に反対し、中止を求めるものである。政府・東京電力は、原子力市民委員会や、広く広範な知見をもつ原子力研究者らが問う汚染水や放射性廃棄物取扱いにかかる代替策に真摯に向き合い、その実施と、汚染水の発生そのものを抑制する対策に真剣にシフトすべきである。
■原子力市民委員会が7月18日に発表した「見解:IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない 海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである」http://www.ccnejapan.com/?p=13899
■原子力市民委員会による「トリチウム汚染水海洋放出問題資料集」の参照は以下へ
http://www.ccnejapan.com/?p=12259