「原発回帰政策」を問う

2011年311日の東日本大震災・東電福島第一原発事故から12年目の311日にあたり、原発問題研究者の今中哲二さんに寄稿いただきました。

「原発回帰政策」を問う

今中哲二/原発問題研究者

岸田政権の原発回帰の方針を最初に私が目にしたのは、昨年825日の朝刊だった。原発の新増設に慎重だった政府方針を改めて、「新増設、さらに次世代革新炉の開発を進める」という記事が一面トップに出ていた。それまでは、いまある原発については、新規制基準に合格したものは再稼働を進めるが、運転期間は原則40年、延長しても最大60年と法律で定められていた。つまり、新増設をせず、いずれは原発をなくしてしまおうというレールが、福島原発事故後に当時の民主党政権によって敷かれていた。

安倍政権の頃にも、電力会社をはじめとする原子力ムラの人々が原発推進に向けて画策していることは承知していたが、脱原発を支持する世論がその動きを封じていると私は思っていた。それが、岸田政権になっていとも簡単に放棄され、その是非について社会的な議論がされないまま、あれよあれよという間に、この2月には原発回帰の方針が閣議決定された。

昨年8月に最初の報道があった際に何ごとならんと思って、原発回帰の背景をチェックしてみた。昨年7月、内閣府に「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」という有識者会議が設置された。議長は岸田首相、メンバーは関係閣僚に有識者で、有識者とは、経団連会長、電力代表、連合代表といったお歴々である。そして、一カ月後の第2回GX会議で、新増設を容認し次世代革新炉開発を進めるという原発回帰方針が打ち出された。関係閣僚やお歴々の間でまともな議論が行われたとは想像できず、すべては官僚が用意していた筋書きに沿って進められたと思われる。

官僚が目指しているのは、ウクライナの戦争にともなうエネルギー価格の高騰と二酸化炭素排出削減のかけ声を背景に、原発の「自然消滅路線」から「復活路線」への切り換えである。といっても、次世代革新炉や新増設は、技術開発やってます感を出すための目くらましのようなもので、実現性は乏しい。原子力ムラが狙っているのは、現有原発の再稼働と、「停止期間は寿命に含めない」という姑息な手法での寿命延長である。

今中哲二 プロフィール
2016年京都大学を定年退職し、現在京都大学複合原子力科学研究所研究員。
専門は原子力工学。大学院時代より日本の原子力開発のあり方に疑問を持ちはじめ、研究者としては、原子力を進めるためではなく原子力利用にともなうデメリットを明らかにするというスタンスで研究を行ってきた。広島・長崎原爆投下による放射線被曝量の評価、チェルノブイリ原発事故影響の解明、セミパラチンスク核実験場周辺での放射能汚染の現地調査などに従事。2011年3月の福島第一原発以後はもっぱら福島の問題に専念。
原子力安全研究グループ http://www.rri.Kyoto-u.ac.jp/NSRG/

 

生活者ネットワークは、設立以来、原子力政策の危険性、欺瞞、問題点に着目し、「今ある原子力発電所は順次閉鎖し、新たな原発はつくらせない」という基本政策のもとに活動してきました。

3.11東日本大震災にともない引き起こされた、東京電力福島第一発電所事故ののちは、福島の原発で作られた電気を使ってきた東京都民の役割として、「原発稼働の是非を問う都民投票条例」の制定を求める、直接請求運動を多くの市民とともに組織し、事務局機能を担いました。「原発稼働の是非を問う都民投票条例」は、都議会の壁に阻まれ実現しませんでした。しかし、私たちは、粘り強く「原発ゼロ」を求める活動を継続しています。

事故から12年目の3月11日に開催された、第114回東電本店合同抗議。鎌田慧さん(ルポライター)、落合恵子さん(作家・クレヨンハウス主宰)、山崎久隆さん(たんぽぽ舎)、菅井益郎さん(柏崎・巻原発に反対する在京者の会)、鴨下祐也さん(福島原発被害東京訴訟団)、鴨下全生さん(原発事故被害者で避難者)、玉造順一さん(茨城県議)、脱被ばく実現ネットなどが、抗議のアピールをし、東京電力に対して申し入れを行った。歌や太鼓の音楽によるアピールもあり、350人以上が参加、生活者ネットメンバーも参加した

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次