放射性物質は環境に棄ててはいけない 東京電力福島第一原発処理汚染水が問う日本の原子力政策の行方
放射性物質は環境に棄ててはいけない
東京電力福島第一原発 処理汚染水が問う日本の原子力政策の行方
(生活者通信No.352 2021.1.1 コラム「今いまNOW」掲載)
福島第一原発の敷地には、2020年10月末現在で120万トンを超える放射能汚染水が溜まっている。これまで東京電力は1000基に及ぶ巨大なタンクをつくってそれを貯めてきたが、汚染水は容赦なく増加してきている。東京電力は汚染水の中からさまざまな放射性物質を除去しようとしてきたが、トリチウムは別名「三重水素」と呼ばれ、水素の同位体である。そのため、トリチウムは水の構成要素となっており、汚染水をどんなに厳密に処理し、水を綺麗にしてもトリチウムだけは取り除けない。
2011年3月11日に発生した福島第一原発事故では当日運転中だった1号機、2号機、3号機の炉心が熔融した。熔け落ちた燃料の総重量は約200トンであった。今、問題になっている汚染水中のトリチウムは、その200トン分の燃料に含まれていたものである。では、もし事故が起きなかったとしたら、その燃料はどうなったのか? それは六ヶ所再処理工場に送られ、そこで処理される計画になっていた。そして、再処理すれば、使用済み燃料中に含まれていたトリチウムは全量が環境に放出される。つまり、もともと環境に放出されることが前提になっていたものなのである。
その上、六ヶ所再処理工場では、1年毎に800トン分の使用済み燃料を処理する計画で、それに相当するトリチウムを毎年、海に流しても安全だと国は言ってきた。国から見れば、今、福島原発で問題になっているトリチウムなど些末なことでしかない。それを海に放出せずに、保管し続けることにするなら、六ヶ所再処理工場の運転もできなくなる。どんなに漁業者が反対しようが、どんなに他国から非難されようが、原子力を進めようとする国にとっては、福島原発の汚染水を保管し続けることは論外であり、海に放出する以外に選択肢がない。
もともと放射能を無毒化する力は人間にはない。そして、自然にもその力はないので、放射性物質は環境に棄ててはいけない。特にトリチウムのように捕捉することができず、環境に棄てるしかない放射性物質はつくってはいけない。つまり原子力を利用してはいけない。
福島原発の汚染水問題は、日本の原子力政策を続けてよいかどうかという、まことに本質的な問題なのである。私たちは心してこの問題に向かう必要がある。
小出 裕章 元京都大学原子炉実験所助教