種苗法改正、自民党は今国会成立を断念―引き続き反対の声を
2020年5月21日
東京・生活者ネットワーク
2018年4月、主要作物種子法(種子法)が廃止されて以降、「公共財としての種子」という考え方を疎かにする政府の姿勢に対し、疑問の声が多くの市民からあげられています。そして、今国会に上程されていた種苗法改正については、「新型コロナ感染症対策への補正予算ほか国民の命と生活に関わる重要課題が相次ぐ中、本当に不要不急の法案なのか?!」との声を無視して審議入りするのではという懸念もありましたが、20日、与党自民党は今国会での審議は見送ると発表しました。
生活者ネットワークは種子法廃止の際も抗議の声をあげ、続く種苗法改正についても反対を表明するとともに、食の根本である日本の農業を守るための公共財としての種子の理念を実態化する法整備を求めています。
「公共財としての種子」「食の確保としての農業」への政権与党の姿勢を問う
種子法廃止後も、市民の主食である米、麦、大豆、特に米について都道府県の農業試験場などを中心として原種の維持を行いながら、地域の環境にあわせた品種改良を行うことを担保するために、種子条例を制定する道県が相次いでいます。2020年4月現在、18道県が策定済みです。
一方、種苗法は花や農作物の新品種への保護を定めた法律ですが、これまで「試験または研究のため」と「農業者」は自家増殖・自家採取は原則自由とされていました。ここ何年かで禁止対象品目が増えていますが、今回の改正案では、
①登録品種の自己増殖がすべて許諾性となり、手続きが煩雑になったり毎年種子を購入することで、農業者の負担が懸念される、
②在来種についてはこれまでどおり自家増殖は自由だが、育種権侵害の証明のために特性表の活用が強化され、一致するものが品種登録されてしまった場合は、登録した育成権が優先し公共財としての在来種が守れなくなる可能性がある、
―—といった日本の農業への影響が指摘され、改正に反対する声が広がっています。
その背景には、2017年に施行された農業競争力強化支援法があります。支援法では国や都道府県が培ってきた種苗の知見を、海外企業を含む民間企業に提供することを求めています。農水省が種苗法改正理由の先頭にあげる「シャインマスカットやいちごなどの育種権の海外流出を防ぐこと」は、種苗法を改正したとしても防げる保障はなく、逆に支援法によりビジネスとしての農業競争の中で常に危険にさらされていくことになります。
経済戦略としての農業でなく「食」としての農業を守る
今回の新型コロナ感染症の世界的流行の中で、私たちの生活にとって大事なものを自国で賄っていくことの重要性を多くの国民が痛感している中で、「食」という欠かせないものをどう守っていくかが、あらためて問われています。
生活者ネットワークでは、元農林水産大臣の山田正彦さんを講師に招き学習会を開催するなど、農業への懸念を市民と共有し地域の声として議会でも課題提起しています。清瀬市議会では3月定例議会で生活者ネットワークの提案により「自家増殖を原則禁止とする種苗法改定の取りやめを求める意見書」が自民党含め全会一致で可決。狛江市議会や日野市議会では市民による請願も提出されました。
今国会での種苗法改正は見送られましたが、政府は根本的な考え方は変えてはいません。政権与党がこの国の、いったい「何を」「何のために」大事にしようとしているかをしっかりと見極め、今後も地域政党として声を発していきます。